Diego Velazquez
Christ
キリスト
ベラスケスの描いたこのキリスト像は、世界中でも、最も美しい磔刑図なのではないかと、私は思う。

教会の祭壇画として注文を受け、製作されたという。ベラスケスはイタリア旅行から帰った直後で、イタリア・ルネッサンスの絵画、技法、とくにこの絵ではルネサンスの肉体表現を学び、習得したその跡があます所なくよく表現されている。
ルネサンスは人間復興を旗印に、中世では軽んじられていた人間の肉体を肯定し、その美しさを追求した芸術活動でもあった。
キリストの磔刑図は数多く製作されてきたが、たいがい痩せさらばえた、惨めで貧弱な肉体のキリストというのが、磔刑図の一般的な約束事である。しかしこのベラスケスのキリストは、ルネサンス的な輝くばかりの肉体を持っていて、非常に珍しい表現である。
珍しいといえば、足に穿たれた釘が、左右それぞれ一本ずつ、二本になっていることも珍しい。殆どのキリスト像は両足を重ね、一本の釘で磔にされているのだ。
でも考えてみれば、現実としては、両足を重ねて穿たれる、というのはいかにも姿勢として不自然で、またそんな格好で何日も磔にされたままではいられないのではないかという疑問が、私には常々あった。
左右の足にそれぞれ一本ずつ、というのが、やはり刑としては親切であろう。刑に親切というものがあればだが。
映画「ジーザス・クライスト・スーパースター」では、問題の磔刑の場面では、足と手の部分に、釘とは別に縄をぐるぐる巻かれていた。やはり、現実としてはそうでもしないと、肉体を支えきれないのである。
古来より、画家たちは誤った約束ごとで磔刑を表現してきた、と言わざるをえないのだ。
しかしそれが、絵画的表現というものであった。
もうひとつ 「ヴィーナスの化粧」。

朴念仁のように見えるベラスケスも、このようにバック姿もなまめかしい、市井の女性としか思えない、ヴィーナスにかこつけた女のヌードを描いていたのだった。
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